科学コミュニケーションと科学研究の未知の窓

昨年12月に参加した日本サイエンスコミュニケーション協会(JASC)の年会にて、多摩六都科学館の高柳雄一館長(参考:多摩六都科学館についての講演を聴きました。「ジョハリの窓」を用いて基礎科学の重要性を説く箇所がありました。興味深かったので、その話に関してここで考えたいと思います。

※高柳館長の意に反する面もあるかもしれませんが、個人の見解をここに書き記します。

※講演録は以下の文献に掲載されています。
高柳雄一「最近、科学の話をするとき、意識したこと」日本科学コミュニケーション協会誌 Vol.9 No.1 p23-p29 (2019)


さて、「ジョハリの窓」とは自己理解に関する心理学のモデルのことです。心理学者のジョセフ・ルフトとハリー・インガムが提唱したもので、彼らのFirst nameを繋ぎ合わせて、そう呼ばれているそうです。とある先生は、「オグシオ」みたいなもの、と言っていました。


ジョハリの窓は、以下の4つの“窓”から構成されます。

  • 開放の窓:自分も他人も知っている自己
  • 盲点の窓:自分は気がついていないが、他人は知っている自己
  • 秘密の窓:自分は知っているが、他人は気づいていない自己
  • 未知の窓:誰からもまだ知られていない自己

これを科学研究バージョンにすると、

  • 開放の窓→ 誰でも知っている問い/成果の恩恵
  • 盲点の窓→ 他者が知っている問い/成果の恩恵
  • 秘密の窓→ 自分だけが知っている問い/成果の恩恵
  • 未知の窓→ まだ誰も知らない問い/成果の恩恵

とでもなりましょうか。


研究費を獲得するためにアピールするのは科学研究の“秘密の窓”でしょう。「この問いを解決すれば、こんな良いことがある」といった具合で、説明されます。


ただし、基礎科学の場合、「こんな良いことがある」の部分が一般社会への恩恵にすぐに繋がらない場合が多いです。でも、100年後に恩恵に繋がるかもしれません。これはいわば、科学研究の“未知の窓”だと理解できます。

※ラムズフェルド風に言うと、「Unknown unknowns(未知の未知)」と言えます。


まだ誰も知らない問いや、その成果の恩恵、つまりは科学研究の“未知の窓”をどうアピールすべきかは、科学研究自体の問題であり、科学コミュニケーション活動の課題だと言えます。


さらに難しい点は、そこには“未知の窓”にどのくらいの費用を投じられるか、という費用対効果の問題もつきまといます。高柳館長は講演で、その点について以下のように語っています。


費用対効果の効果を考えるとき、やってみないとわからないこともあるという議論ではなかなか前に進めません。(中略)でも、科学の歴史を見てみると、やってみたおかげで、すごい成果が出た事例がいくらでもあります。しかし、いくらでもあるから、やってよいという話にはならない。
高柳雄一 「最近、科学の話をするとき、意識したこと」 日本科学コミュニケーション協会誌 Vol.9 No.1 p23-p29 (2019)


科学研究推進の是非は、KnownとUnknownのせめぎ合いの中、さらには、費用対効果と好奇心の狭間で議論されていきます。ビッグサイエンスに位置付けられる基礎研究(例えば、リニアコライダー計画)では、その点が極めて重大な問題となります。

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